文=神田智浩(福岡大学)
運動と感覚を司る神経には密接な関係があります。思うように身体を動かし、素早くコツを掴むためにはどうすればいいのでしょう。近年、この運動神経と称される運動感覚を高めるトレーニングとして「コーディネーショントレーニング」が注目を集め、多くの競技で取り入れられています。
剣道のトレーニング(稽古の手法)としてはまだ開発途上ですが、今後、選手のパフォーマンスを高めることに加え、子供達の運動へのモチベーションを保つために必要不可欠になってくるでしょう。
本資料では、コーディネーショントレーニングで期待される効果、並びに剣道の技術への活かし方についてまとめます。
コーディネーション能力とは
近年、運動神経のことを「コーディネーション能力」と呼ぶことが増えてきました。「コーディネーション能力」とは調整力のことを指し、目や耳などの感覚器から入ってきた情報を脳で処理して、身体の各部に正確に指令を出すために必要な能力と言えます。
もともとは1970年代に旧東ドイツのスポーツ運動学者が考え出した理論で、運動に必要な能力を7つに分類したものです。
頭でイメージした動きを正確に体現させるために必要な能力を体系化しています。スポーツを行っている時は、これらの能力が複雑に組み合わさっているのです。
- リズム能力:イメージ通りに身体を動かす能力
- 連結能力:状況に応じて身体の動きを切り換える能力
- バランス能力:身体の体制が崩れてもプレーを続ける能力
- 変換能力:状況に応じて身体の動きを切り換える能力
- 反応能力:合図などに正確に素早く対処できる能力
- 識別能力:道具や用具を適切な力で正確に操作できる能力
- 定位能力:自分と相手や物との位置関係や距離感覚を正確につかむ能力
コーディネーショントレーニングの重要性
運動やスポーツにおいては、からだの姿勢や運動の様子を自身で認識し、それらに基づいて運動を上手くコントロールすることが必要です。優秀なスポーツ選手になるには、自分の運動感覚を認識し、改善点を発見し、長所を最大限に伸ばす必要があります。
第一線で活躍するスポーツ選手は、コーディネーション能力が高いです。その多くが子どもの頃に人一倍様々な遊びを体験していることが報告されています。
加えて、遊びだけに限らず、色々なスポーツを経験している人ほど専門種目を習得する際に伸び幅があります。
理由として考えられること
遊びや様々なスポーツを通して基本的な動きを体験し、自然と神経系や感覚器が刺激されているから
剣道におけるコーディネーショントレーニングの目的
コーディネーショントレーニングを行うことで、楽しみながら剣道に取り組み、技術向上の役に立つ運動能力を鍛えることができます。
剣道におけるコーディネーショントレーニングでは、以下の4つを目指します。
- 剣道の技術向上のための基礎能力作り
- 子供の運動不足解消、運動能力向上
- 怪我の予防
- 剣道に対するモチベーションアップ(友達・親子のコミュニケーション)
7つのコーディネーション能力
コーディネーション能力は、以下の7つに分類されます。
- リズム能力
- イメージ通りに身体を動かすことを可能にする能力。真似をする、またはリズムやテンポに合わせて身体を動かす能力
剣道の場面では、上手な選手の打ち方や動作を真似できることや、相手のタイミングをはかって応じ技が打てるなど
- イメージ通りに身体を動かすことを可能にする能力。真似をする、またはリズムやテンポに合わせて身体を動かす能力
- 連結能力
- 身体の様々な部分を同時に思い通りに動かすことができる、または2つ以上のことを同時にする能力。剣道の場面では、素振りや動き全般に該当する(上半身は竹刀を振り、下半身は足さばき)。身体を前進、後退する場合に同時にスムーズに竹刀を振ることができるようになる
- 変換能力
- 状況に応じて身体の動きを切り換えられる能力。相手の面に対して応じ技を準備していて、相手が小手を打ってきた場合でも、瞬時に小手に対しての応じ技に切り換えることができる。相手を攻めていて相手が動かない場合、技を仕掛けていくが、突然相手が技を繰り出してきた場合でも瞬時に仕掛け技から応じ技へと判断を切り換え対応できる
- 反応能力
- 合図などに正確に素早く対処できる能力。相手もしくは自分が技を出すタイミングを正確に見極め、防御または応じ技などに繋げる
- バランス能力
- 身体の体制が崩れてもプレーを続けることを可能にする能力。無理な体勢から技に繋げることができる
- 識別(分化)能力
- 道具や用具を適切な力で正確に操作できる能力。正確な竹刀操作を行える。打突部位を正確に捉えることができる。強い(冴えのある)打ちができる。
- 定位能力
- 自分と相手や物との位置関係や距離感覚を正確につかむことを可能にする能力。自分が打てる距離感や相手の攻撃をかわせる距離感の感覚。相手との距離を見て、ここで打てる!という正確な判断ができる
7つのコーディネーション能力はそれぞれバラバラに存在しているものではなく、いくつかの能力が複雑にかみ合って様々な動作を可能にしています。
コーディネーショントレーニングの負荷・効果を高めるキーワード
両側性 | 1つのエクササイズを様々な方向からおこなう |
変化 | 同じエクササイズを繰り返すだけでなく、できれば少しずつでも内容を変化させる工夫が必要 |
複合 | いくつかのエクササイズを組み合わせて行う工夫も必要 |
短時間 | 1つのトレーニングをあまり長く繰り返すことは効果が上がらない。内容をテンポよく切り替えていくことが大切 |
目的に適合 | 剣道の動作とコーディネーションを結び付けてトレーニング内容を考えられるかが重要 |
差異化 | 動作を行う中で、障害物を入れたり、計算をさせたりと非現実的な状況を作り出す |
剣道の動作に関連するコーディネーション能力
実践中の動作 | 関連するコーディネーション能力 |
仕掛け技 | 相手との適切な距離をはかり、技を出すタイミングを見極める定位能力、状況に合った技を選択し、素早く技を出すことを可能にするリズム、反応、バランス能力 |
応じ技 | 相手の技に対して、二段打ちや三段打ちを素早くおこなうことを可能にする、リズム、変換、反応、識別(分化)能力 |
防御 | 相手の攻撃に対して適切な距離を取り、打たれるリスクを減らすことを可能にする、連結、反応、変換、定位能力 |
素振り | イメージを体現するリズム能力、身体の動きと竹刀の動作をスムーズに繋げる、連結、識別(分化)能力 |
足さばき | イメージを体現するリズム能力、素早い足さばきを可能にするバランス能力 |
コーディネーショントレーニングの種類
- ボールを使ったトレーニング
- ラダーを使ったトレーニング
- フラフープを使ったトレーニング
- 縄跳びを使ったトレーニング
- 複数人で行うトレーニング
- じゃんけんを使ったトレーニング
上記の内容を組み合わせながら難易度を上げていきます。
幅広く多様な動きのトレーニングをすると、運動を行う回路がより精密につくられ、複雑で高度な技術の習得に大変役に立ちます。
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