ジュニア剣道

海外剣士から見た日本の剣道環境

2022年8月9日

構成・文 = ぺパイン・ボームガド(オランダ人)
翻訳 = 佐藤まり子

海外の剣道家は、日本の剣道大会(全日本剣道選手権大会や八段戦など)を知っている。また、多くのハイレベルな競技者が警察官や刑務官としてフルタイムで稽古をしていることも知っているだろう。しかし、日本一の剣士になるために、どのような環境で、どれほどの努力を費やしているかはあまり知られていない。そこで本記事では、日本剣道の競技環境と、日本の剣道家が歩む典型的な道筋について説明したい。

1. 剣道の開始時期

強豪選手の多くは、小学生から剣道を始める。日本の小学校には課外授業がないので、剣道を始める子供たちは地元の道場に所属する(例:戸塚道場)。道場には、ボランティアで運営されているところもあれば、営利目的のところもある。中には、地元の警察署が主催している道場もある。剣道専用の道場を建てる余裕のある道場もあるが、ほとんどは地元の体育館(日本では一般的 にフローリング)を利用している。 

こういった道場の指導者はジュニア指導の経験が豊富だ。さらに、海外と比較すると子どもの競技人口も多いため、子どもたちは同年代の子ども同士で稽古をすることもできる。この時期に、正しい足捌きや踏み込みを学ぶ。

この年齢で初めて全国規模の大会を経験する子供も少なくない。この年齢の子どもたちが参加する大きな大会のひとつに、「全国道場少年剣道大会」がある。この大会は、日本全国の子どもたちが所属する道場の代表として出場する。今年は14の会場に600を超えるチームが参加した。個人戦もあり、過去のメダリストには、星子、竹之内、梅ヶ谷、村上雷太など、有名な剣士が多くいる。

2. 中学

日本の子どもたちは12歳になると中学生になる。この頃から学校の部活動で課外活動をすることができるようになる。多くの中学校に剣道部があり、学校内に剣道専用の道場があるところも少なくない。地元の道場に通う子もいるが、この時期から学校の剣道部での稽古に切り替える子が多いようだ。熱心な子供たちは、両方での稽古を選択する場合もある。私立の場合、小学校の成績でスポーツ奨学金を得ることもあり、成績優秀者は学費が無料になることもある。

学校の部活の練習は、だいたい16時頃から始まり、2~3時間続くことが多い。週末や祝祭日も例外ではなく、毎日参加することが求めらる。クラブによっては、授業が始まる前の午前中に練習をすることもある。練習内容は、足捌きや素振り、切り返しなどが多く、スピードや体力、戦術的な洞察力を高めることが期待される。 

中学生以上になると、他校と合同で練習試合を行うなど、試合への準備に時間を割くようになる。

この段階での大きな大会は、団体部門と個人部門がある全国中学校剣道大会である。しかし、前述の道場少年大会のような驚異的なチーム数とは異なり、この大会は48チームしかない。全日本大会に出場するためには、各都道府県の予選大会で優勝する必要がある。ちなみに、東京都だけでも中学校の数は800校以上ある。もちろん、そのすべてに剣道部があるわけではないが、その確率を理解することはできるだろう。実際、入賞できるのはほんの一握りである。そういう強豪校は誰もが知っており、剣道に本気で打ち込みたい意欲的な子どもたちは、そこへの進学を目指している。 

また、道場生は全日本道場少年剣道大会の中学生の部に出場することができる。勝見、安藤、竹之内、鍋山などが有名なメダリストだ。

中学生になると、足捌きや手打ちなど、剣道の基本をしっかり身につけることが求められるようになる。まだ中学1年生では小学生のような体つきをしている人も多いが、最後にはほとんどの人が身体的にも(精神的にも)大きく成長している。

小学校(6-12)
中学校(12-15)
高校 (15-18)
大学 (18-22)

3. 高校

中学校で活躍した子どもたちは、強い選手を求める高校からスカウトされることが多い。この場合も、強い人材を集めるには、奨学金を提供するのが一番だ。しかし、中学校と違うのは、高校は地元だけでなく、他市、時には他県の出身者にも目を向けていることだ。遠方に住む生徒を受け入れるために、多くのトップ校では寮を完備している。こうして有名校は、全国から優秀な選手を集めることができるのである。

高校時代は、トレーニングが非常に厳しくなる。剣道にふさわしい体格を作ることに重点が置かれ、有酸素運動や筋力トレーニングに多くの時間が費やされる。
剣道の稽古も厳しくなる。強い打突力、素早い足さばき、不屈の精神が求められる。素振り、切返し、追い込み稽古、かかり稽古を何度も繰り返すことで、これを達成する。また、多くの学校が他校と合同で練習試合を行うなど、さらに多くの時間を試合の練習に費やす。数日間の練習試合の後、大会が開催されたこともある。私が参加したある錬成会には、100校以上の学校が参加した。 

和歌山におけるトレーニングキャンプ

ある強豪校の生徒は、正月とお盆(8月の日本の3連休)しか休みがない。それ以外は毎日練習することになる。もちろん、宿題をこなすのが大変な生徒もいる。 

高校では、全国高校総体剣道大会(インターハイ)、全国選抜大会、玉竜旗、魁星旗という4つの大きな大会がある。インターハイと選抜大会は、いずれも都道府県予選を経て出場権を獲得する必要がある。しかし、福岡のように剣道人口が多い県では、さらに1つの予選大会がある。福岡の場合、県内が3つのエリアに分けられる。これらのエリアには、それぞれ予選大会がある。福岡県中・北部の大会では、上位12校が県大会に進出できる。南部地域からはベスト8校、合計32校が県大会に参加する。

都道府県予選の優勝校は、全国大会に出場できる。(ただし、剣道人口が多い県は複数校を派遣することができる。福岡の場合、上位2校がインターハイに出場できる) インターハイで優勝すると、日本の強豪校の仲間入りができ、優勝チームのメンバーは日本のトップクラスの剣道大学から推薦入学を獲得することが多い。

玉竜旗(福岡)、魁聖旗(秋田)は、日本全国どの学校でも自由に参加できるユニークで巨大な大会だ。今年の玉竜旗は、男子455チーム女子333チームが6日間にわたって熱戦を繰り広げた。両大会とも「勝ち抜き方式」で行われ、一方の選手が勝てば、そのまま勝ち残り、次の相手選手と戦うことができる。引き分けの場合は、両者とも退場となる。そのため、強い選手が一人で相手チームを倒してしまうというエキサイティングな場面もある。(2013年の玉竜旗では、梅ヶ谷が11連勝で福大大濠を優勝に導いたのは有名な話だ)

玉竜旗 女子の部の開会式

8月に行われる玉竜旗が終わると、年度内には大きな大会がないため、高校3年生は大学受験の勉強に専念するために剣道部を「引退」することが多い。この頃になると、強い選手は体育大学から声がかかるかもしれない。強豪大学への進学を考えない普通の剣士は、ここで(競技)剣道人生の終わりを迎えることも少なくない。

高校の4大大会
インターハイ
全国選抜大会
玉竜旗
魁星旗

4. 大学

高校時代に好成績を収め、本気で剣道をやろうとする選手は、体育系の大学に進学することが多い。ここで体育教師を目指すと同時に、剣道部の練習に参加するのが一般的だ。このレベルの稽古は、体力的にはまだ厳しいが、自由度が高く、ランニングやウエイトリフティングなどの補習は各自で行うことが多い。また、日曜日は休みになるのが一般的である。

強豪大学では、七段、八段の先生が複数いることが多く、地稽古に多くの時間が割かれる。また、部活動の稽古人数も高校に比べるとかなり多い(国士舘、国際武道大学の剣道部はともに200人程度)。

ここでも、試合は非常に重要だ。これは、試合の成績が卒業後の就職に直結することがあるためだ。大学の数が(中学)高校に比べて圧倒的に少ないので、都道府県レベルの予選は行われない。その代わり、地方予選が行われる。東京を含む関東地方には強豪大学が多い。全国で8地区しかないため、全国大会に出場するためには予選を勝ち抜かなければならないわけではなくなった。もちろん、中学や高校と同じように、全日本の優勝校はいつも一握りだ。一つの大学で練習する人数がかなり多いため、なかなかメンバーに選ばれない。

大学4年間を経て、トップの成績を収めた選手は警察官になることが多い。そのほかの学生は体育の先生や事務職に就く。この段階で剣道をやめる人もいる。

5. 大学卒業後

学生時代に目立った成績を残した人は警察の特練に入る。これは剣道のプロと言っていいかもしれない。教師、刑務官、自衛隊、剣道部のある会社など、仕事をしながら剣道ができる職業もある。普通の仕事をするようになった人の多くは、大人になってから剣道を続ける時間がない。中には、青春時代を剣道に捧げてきたのに、すっかり剣道に嫌気がさしてしまう人もいる。また、少し時間をおいてから剣道を再開する人もいる。

剣道のプロになるような人は、10年以上剣道の修行に励み、空いた時間はすべて強くなるために捧げている。いわゆる有名道場で剣道を始め、強豪高校や大学に進学し、大きな大会で入賞している人たちだ。個人的に、そういう人たちを心から尊敬している。外国人剣士は日本の剣道家に与えられた機会を妬むことが多いが、彼らがいかに自分の修行に専念し、日々努力しているかを過小評価してはならない。

強豪高校
九州学院(熊本)
福大大濠(福岡)
福岡第一(福岡)
明豊(大分)
水戸葵陵(茨城)
高千穂(宮崎)
島原(長崎)
強豪大学
筑波大学(茨城)
国士舘大学(東京)
中央大学(東京)
国際武道大学(千葉)
鹿屋体育大学(鹿児島)
大阪体育大学(大阪)

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1 Comment

  • Reply Mark 2022年9月10日 at 1:29 PM

    Thanks for your blog, nice to read. Do not stop.

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